憲法理論研究会編『憲理研30年のあゆみ』より抜粋
《編集部注》執筆者(故人含む)の肩書きは94年当時のものです。
(『憲理研30年のあゆみ』1頁より)
憲理研創立30周年を迎えて
憲法理論研究会運営委員長 吉田善明
憲理研は、科学的な憲法学の理論的な研究をめざす自由な研究交流の場として30年の歴史を刻んできました。
30年前の1964年といえば、私にとっては研究者としての駆け出しの時代です。日米安保条約が改定され、憲法改正論議が激しく行われていました。学会では憲法学の研究のありようが問われ、方法論をふまえた憲法学の課題などが取り上げられて論じられていました。当時このような憲法状況の中で、憲理研の先輩諸先生や友人達の真摯な論議をみながら、研究者として果たすべき責任と役割を学びとったものでした。憲理研は、その点で私の研究生活の原点となっています。
憲法状況は依然厳しいものとなっていますが、憲理研が会員諸氏の研究成果(憲法理論)の有効性を検証する場としておおいに活用されることを希望し、今後のさらなる発展を期待します。
30周年記念行事実行委員長 大須賀明
憲理研が30周年を迎えたことを心から祝いたいと思う。このように長い歴史を持つことができたのは、憲法学の研究団体として、専門の自律性と合理性を追求しながら、理論的活動を積極的に推進したこと、さらに自由、とりわけ学問の自由を内部において十分に確保していたことによると思われる。
一般に学問上の創造的な成果は、研究者の、その人に独自の秀でた資質が十分に活かされたときに生み出されることが多いし、また異質の理論や思想がぶつかり合う時にはじめて議論は充実したものとなり、理論的な発展を期待することができるように思われる。まさに多様性こそは人類の財産であって、それを確保されていれば、あとは自由な交流と対話によって、すぐれた多くの成果を期待できるのであって、それが憲法学の発展を生み出すことは疑いのないことであろう。
草創期の憲理研の新しい道を開いたのは、20代から30代にかけての若手の研究者たちであった。今日憲理研の担い手は代わり、すべての世代にわたっているが、新しい理論の創造に積極的にチャレンジする若々しい精神に充ち溢れた研究者集団として、今後も存続しつづけてほしいと願うばかりである。
(『憲理研30年のあゆみ』2-4頁より)
《憲理研30周年に寄せて》(敬称略,50音順)
○ 芦部信喜(東京大学名誉教授)[元会員]
憲理研は、鈴木安蔵先生が書かれているように(「憲法理論研究会における諸問題」立正法学4巻2・3号)、「圧倒的に若い世代の研究者集団」であった。憲法理論研究ニューズ(66年5月創刊)をみると、私も64年から67年にかけての初期の段階では、年に一度は例会報告を担当していたことが記されてあり、感慨深い。30周年をお祝いするとともに、鈴木先生の言われる「根本的な憲法理論の追求」という創立時の精神を今後も生かしてほしいと願う。
○ 池田政章(駿河台大学教授、立教大学名誉教授)[元会員]
発会当初の記憶は定かではないが、今もって忘れられない研究会は、「憲法現象の構造」に関する影山日出弥報告(立教大学で開催)である。それは、憲法動態の法則解明の第一歩を印したものとして、科学的憲法論からみた必須の課題であると考えたからであった。が、現在、残念ながら若手会員のなかにその追随者を見出すのは困難、というのが現状のよう。願わくば、法意識論、比較法文化論などの一般理論的観点からのこの種の研究の取り組みに意欲を見せてほしいと期待する今日このごろである。
○ 上野裕久(岡山大学名誉教授)[元会員]
東大内地留学中鈴木先生の研究会にはよく参加していたある晩、先生の呼びかけで10名程度勁草書房に集り、憲理研発足について話し合ってから、もう30年経ったかと感無量です。水上、富士、伊豆の合宿等懐かしく思い出します。あの頃合宿に参加された若い人達が今では、わが国の憲法学界のリーダーになられ、鈴木先生も地下で喜んでおられることでしょう。皆さん、頑張って下さい。
○ 小林孝輔(札幌大学教授、青山学院大学名誉教授)[会員]
1964年は、自民党政府の憲法調査会報告書の発表(7月)、これに先立つ積極派委員による「憲法改正の方向」(63年9月)や高柳会長ら17委員の「反対意見書」(同年11月)の発表などにより、漸次伸展してきた世上の護憲論が最高揚した時期であった。当初わが憲理研は、その理論的戦列に加わろうと発足した。30周年の今日、再び台頭する国家主義的改憲論に対し、新たな決意を迫られているように思う。
○ 小林直樹(北海学園大学教授、東京大学名誉教授)[元会員]
会を退いた小生まで、お招き戴き、有難うございました。
体調も十分でないので、出席できませんが、30周年を迎えて、憲理研の諸兄姉が一層の成果と前進を示してくれるよう、心から期待して已みません。折柄、日本の憲法状況は、新たな実質会見の動きの中で、民主勢力の分裂と後退が続き、憲法のアトロフィが深まる危機に際会しています。きびしい理論構築を通じて、この状況を変えていく民主的展望ができるよう、頑張って下さい。
○ 清水英夫(青山学院大学名誉教授)[会員]
典型的な怠け会員ですが、節々の研究書出版には参加させていただきました(「精神的自由権の現代的考察」『精神的自由権』所収、「日本における政治倫理制度の現状と問題点」『議会制民主主義と政治改革』所収)。常に問題意識を持った若々しい学会であることを願っています。
○ 丸山健(静岡大学名誉教授)[元会員]
30周年と聞いて、いささか感慨に耽りました。公法学会にあき足らない当時の若手(戦中派)が全国憲に集り、発足時は50歳以下を基準。北大の今村先生は会員、佐藤功先生は資格がないことになった記憶があります。その中、全国憲では「理論研究が不十分」との指摘が鈴木安蔵先生から出て、少数の若い研究者が憲理研を設立したのではなかったかと思います。現在、会員260名というのはすばらしいことです。今後とも、年齢はともかく、常に若々しい研究会であることを期待しております。
○ 和田英夫(駿河台大学学長、明治大学名誉教授)[元会員]
憲理研が30周年を迎えられたことに大しては、心から慶賀の念にたえません。30年前の発足時には私も参加したかと思いますが、正直のところ、何年つづくのだろうか、という不安もないではなかったのです。それが、中堅・若手の諸研究者によってたえず新風を送りとどけられ、今日の発展を見たのは。憲法学界のためにどれほど有益かは、贅言を要しません。21世紀に向けて、一段の御精進を期待します。